橋桁と橋台の継目の遊間。または、橋桁の継目の隙間。
遊間とは、桁と橋台の胸壁や桁同士がぶつかって損傷が起きないよう設けられる隙間のことを指します。
橋の上部構造は、温度変化や乾燥収縮、地震時の移動量による橋脚の変形により動きます。
災害や通行車両による橋の歪みを吸収するためにもこうした“あそび”は必要であり、設計上必要となるこの隙間は、橋梁用伸縮装置により覆われています。
遊間の種類
伸縮装置において遊間を示す4つの用語をご紹介します。各遊間はそれぞれ異なる意味をもつため、設計図上では大きく区別され記載されます。
床版遊間
床版遊間は橋梁用伸縮装置において、遊間を示す基本用語として使われます。下図の○で囲われている箇所が床版遊間です。
床版とは橋梁の床構造のことであり、橋にかかる負荷を支える床材を指します。
床版遊間はこの床構造の部材に設けられますが、支間長(支承の位置を表す数値。図では、「350」と書かれている箇所)と取り違えが起きないよう、注意が必要です。
標準遊間
標準遊間とは、側面図・平面図・位置図などに記載される、標準気温における遊間のことです。
伸縮装置を選定する際に根拠となる重要な値でもあります。
床版ができた後に現場調査を行う場合、下記の計算方法から数値を割り出すことができます。
標準遊間(mm)=現場遊間(mm)+(調査時気温-標準気温)×伸縮桁長(mm)×線膨張係数
最小遊間
橋梁における遊間の最小値を指します。
下記の計算方法から数値を割り出すことができます。
最小遊間(mm)=標準遊間(mm)-移動量÷2
最大遊間
橋梁における遊間の最大値を指します。
下記の計算方法から数値を割り出すことができます。
最大遊間(mm)=標準遊間(mm)+移動量÷2
NEXCOにおいては最大遊間を基に伸縮装置を選定するので、これもまた重要な値になります。
地震に備えた遊間量とは
橋梁の建設時、仮に遊間を設けなかった場合、どのような問題が発生するのでしょうか。
最も重大な事故を引き起こすと想定されるのが、大地震が起きた場合です。
橋梁は地震の揺れとともに桁の変形量が大きくなります。
桁同士や桁と橋台がぶつかり合い衝突を繰り返すと、上部構造下部構造ともに大きな破損や損傷が生じます。
設計上きちんと遊間量を取らなければ、有事の際には橋が崩落する危険性があることから、それぞれの橋梁には適した遊間量が設けられます。常に安全な走行が保たれるよう、建設時や土木工事の際には非常に緻密な計算を要します。
遊間量の小さい橋の特徴
橋は地面と接する形で建設されるため、地震による地盤変化の影響を受けやすくなります(応答変位)。
遊間量が小さい場合応答変位も同様に小さくなり、上部構造の大きな揺れを抑制する効果が期待できます。
しかし遊間量の小さい橋では、橋台同士が衝突し合い橋梁の損傷が危惧されるため、緩衝材を用いるなど耐震に備えた部材を合わせることが求められます。
遊間量の大きな橋の特徴
遊間量の大きな橋は、地震発生時に上部構造が大きく揺れ動くため、走行中の車両や歩行者は地震の衝撃を感じやすくなります。
しかし、許容遊間量が大きいために地震力を分散する力が働き、免振面で大きな効力を発揮します。
遊間量の大きな橋では、伸縮装置のつなぎ目が増え、走行性の悪さや騒音問題が持ち上がりますが、そうした際には隣り合う桁を連結し、連続化と呼ばれる建設方法を採用することもあります。
遊間量を小さくする目的と課題
騒音問題対策や走行性を高く保つためには、遊間を小さく設け橋梁用伸縮装置の小型化を目指したいところです。
大型の伸縮装置になるほど施工精度を出すのが困難になり、車両走行時にカタンカタンと振動を感じることがあるため、ドライバーの快適な運転を妨げる原因にもなります。
伸縮装置の小型化はコストを下げるといった経済面や、その他維持管理が容易になるなど、メリットが多くあります。
しかし大規模地震が発生した際には、遊間量の小ささから橋が地震のエネルギーを吸収しきれず、橋梁構造が保てない危険性があります。そこで橋梁建設の現場では免振橋梁における開発の際に、遊間幅の大小をポイントに設計・製造が繰り返し行われています。
まとめ
普段渡る橋には隙間が設けられており、橋の上部構造に関わる重要な役割を担っていることが分かりました。遊間は伸縮装置に覆われているため、確認することは難しい施工部分ですが、巨大な構造物を安全に維持するために不可欠な“あそび”です。
遊間量の大小により、地震時の揺れ幅や体感が異なり、また衝撃を吸収する許容量にも違いがあります。近年は各地で免振橋梁が多く見られますが、日本の技術者や開発者により研究と製品開発が繰り返され、有事の際でも安全性が保たれた橋の建設が行われています。