橋梁の伸縮量は、伸縮装置を選ぶ上でとても重要な情報です。橋桁は気温の変化によって、常日頃から伸び縮みをしています。それに対応するために伸縮装置が設置されるので、伸縮量の計算は最も重要なのです。
しかし、伸縮量は気温の変化だけで決まるものではありません。乾燥や荷重による歪みなど、あらゆる条件を考慮しなくてはいけないため複雑です。
そこでこの記事では、橋桁の伸縮量をどのように求めるかわかりやすく解説します。ポイントと要点をまとめましたので、概要はすべて押さえられます。
伸縮装置の伸縮量の求め方
橋は様々な理由によって伸び縮みを繰り返しています。この伸縮は日頃から行われているので、「常時伸縮量」や「基本伸縮量」とも呼ばれています。
伸縮の1番の理由は気温の変化です。しかし、それ以外にも以下のような原因があります。
- 温度変化による伸縮量
- 乾燥収縮量
- クリープひずみ
- たわみによる移動量
- 各誤差による余裕量
これらそれぞれを橋の条件を考慮して計算し、合算することで最終的な伸び縮みの量を求めるのです。
具体的な伸縮量の計算方法と流れ
温度変化や乾燥による収縮、たわみなどを鑑みて伸縮量を求める方法を標準計算と呼びます。その具体的な計算式をそれぞれ紹介しましょう。
温度変化による伸縮量
橋桁は気温によって大きく伸び縮みしています。その伸縮量は次の式で求めます。
伸縮量=T×α×L
T:温度変化の範囲、α:線膨張係数、L:伸縮桁長
線膨張係数は橋の種類によって異なります。鋼橋なら12×10-6、PC橋なら10×10-6です。
なお、伸縮桁長は少し複雑で橋の構造で変わります。次の記事にまとめていますので、そちらで詳細を確認してください。
乾燥収縮量
PC橋はコンクリートを使用しています。コンクリートは水分が含まれるので、乾燥して縮むことを考慮しなくてはいけません。
収縮量=ε×L
ε:乾燥収縮度、L:伸縮桁長
乾燥収縮度は、国土交通省が定める道路橋示方書に記載された数値を使用します。以下がその数値です。
なお、これはコンクリートによる影響ですので、鋼橋であれば使用しません。
クリープひずみ
PC橋はコンクリートを引っ張って圧縮しています。これにより、時間とともにひずみが増すので、その量を計算する必要があります。これがクリープひずみです。
ひずみ=P/(E×A)×φ×L
P:プレストレッシング後のPC鋼材に働く引張力、E:コンクリートのヤング係数
A:コンクリートの断面積、φ:コンクリートのクリープ係数、L:伸縮量
ヤング係数とクリープ係数は、道路橋示方書の数値を使用します。
このクリープひずみもPC橋特有のものなので、鋼橋には使用しません。
たわみによる移動量
橋の上を車が通ることで荷重がかかるため、橋桁がたわんで両端に変位が生じます。
変位量は構造解析によって求めるため、その数値を使うのが基本です。しかし、支承の設置箇所での変位量なので、正確には少し位置が異なります。
そのため、たわみやすい橋では余計に変位する場合があるので、その点を踏まえて計算しなくてはいけません。
各誤差による余裕量
計算の誤差、あるいは施工の設置誤差が起きる可能性は十分考えられます。これらを踏まえて、余裕量として儲ける必要があります。
余裕量:10mm
橋の規模や構造などは関係なく、上記の数値をそのまま使用します。
その他の移動量
これまで紹介した5つ以外にも、次のような変位・移動量があります。
- 勾配による変位
- 斜橋や曲線橋の変位
- 土圧による移動
- 風圧による変位
- 積雪によるたわみ
これらの影響は全ての橋に考えられますが、ほとんどの場合は無視しても良いくらい小さいものです。そのため、基本的には設置誤差の余裕量までで計算しますが、その他の影響が大きいと思われる場合は検討しなくてはいけません。
以上の内容を足し合わせて橋梁の伸縮量を求めます。その結果を元に伸縮装置を選定するため、この計算はとても重要です。
伸縮量の計算が難しい場合の対処方法
伸縮量の標準計算では、色々な資料やデータ、そして構造解析までも必要とします。ですが、すべての橋でそれらを揃えるのは難しいので、データが揃わない場合は簡易計算式を使います。
簡易計算式は、平成29年11月の道路橋示方書の改定まで、一般的に使用されていた方法です。これまでの実績でも、簡易計算式は特に問題ないとされています。
具体的な内容は次の記事で解説していますのでご覧ください。