鋼床版は、橋桁そのものを軽くできるメリットがあります。また、工期を大幅に短縮できる利点もあるため重宝されていますが、伸縮装置の設置には注意しなくてはいけません。
この記事では、鋼床版の特徴と伸縮装置設置のポイントを解説しました。合わせて、鋼床版で使用できる伸縮装置も紹介しているので、装置選びの参考としてもご覧ください。
鋼床版の伸縮装置の構造と特徴
鋼床版とその他の床版の違いは、舗装のすぐ下が鋼材である点です。通常は、舗装の下にはRC(鉄筋コンクリート)やPC(プレストレストコンクリート)があります。
そのため、鋼床版は車の荷重を直接支持する構造になっています。これにより、他の床版とは異なるメリットとデメリットがあるので、それぞれ解説します。
鋼床版のメリット
鋼床版のメリットは次の2つです。
- 工期を大幅に短縮できる
- 橋桁の自重が軽くなる
鋼桁は工場で制作されます。そのため、現地では設置するだけで終わるので、工期がグッと短くなり品質も高いです。
また、厚いコンクリートよりも鋼桁の方が軽いので、全体の重量も少なくなります。これにより、地盤の悪い場所や支承間の長い橋にも使えるのです。
鋼床版のデメリット
デメリットは次の2つが挙げられます。
- 剛性が低いのでたわみやすい
- 気温による影響が大きい
剛性は、ねじりや曲げの力に対する変化のしやすさを示します。剛性が低いので、車の荷重で大きくたわんでしまい、橋桁のひび割れなどの原因になる可能性は高いです。
気温によって伸び縮みする割合が大きい点もデメリットのひとつ。加えて、コンクリート床版よりも温度が低くなりやすいために、路面凍結しやすい点に注意が必要です。
鋼床版に伸縮装置を設置する場合のポイント
鋼床版に伸縮装置を設置(取替)する場合は、次の3つを満たす必要があります。
- 舗装内に収まる形状であること
- ひずみや振動への耐性が高いこと
- 鋼床版にしっかりと固定できること
鋼床版はRCの橋桁よりも厚みがないので、舗装の中に収まるように、できるだけ薄い伸縮装置を選ばなくてはいけません。
また、ひずみや振動が大きいため、想定よりも異なる動きを鋼床版がする可能性もあります。そのため、複雑な構造の装置は柔軟性の問題で不向きです。
鋼床版に設置できる伸縮装置
伸縮装置の中から厚みの薄いものを選ぶ、という方法が考えられますが、鋼床版にはひずみへの対応も考慮しなくてはいけません。
そのため、鋼床版専用の伸縮装置も開発されていて、代表的なものは次の3つがあります。
ハイブリッドジョイントCSタイプ
舗装厚内に収まる設計で、専用の装置になっています。鋼床版対応として、首都高速道路に唯一使用できる製品です(2022年8月時点)。
チューリップジョイントSJシリーズ(鋼床版型)
独自の断面形状とシンプルな構造でありながら機能性も高く、関西国際空港無人列車の高架橋にも採用された製品シリーズです。
スーパーガイトップジョイントK型
鋼床版に特化した専用製品で、表面の鋼材と加硫接着ゴムを連続化して高い耐久性を持っています。露出している幅が少ないため、騒音や振動が起きにくい特徴があります。
鋼床版への伸縮装置の固定方法
伸縮装置のコンクリート床版への固定は、取替の場合だと拡張式アンカーで行うのが一般的です。しかし、鋼床版は鋼材ですので、拡張式アンカーを設置することができません。
そこで、鋼床版では別の方法を取る必要があります。代表的なものは次の2つです。
- スタッドボルト
- 高力ボルト
スタッドボルト
現場でスタッド溶接を行う方法です。工場などで良く施工されていますが、とても大掛かりな溶接機を使用します。
そのため、大型の溶接機と運搬車両が常用ですので、積算には注意が必要です。
なお、この方法は溶接跡が鋼床版の裏に残るので、塗装がある場合は伸縮装置の設置が終わってから行うことをおすすめします。
高力ボルト
鋼床版に穴を開けて、高力ボルト(ハイテンションボルト)で固定します。床版自体に多くの穴を開けるため、強度の確認がとても大切です。
また、橋桁の上下でボルトを使い押さえるので、施工の際は桁下にも人員が必要となります。
以上です。鋼床版における施工は、他のものと手順が違います。
詳しくは、鋼床版用の製品を扱っているメーカーが把握していますので、問い合わせすることも検討しましょう。