ジェラフィンは株式会社エスイーシーが開発した新しいウレタン樹脂です。深海で使用する電子機器の耐圧防止用に作られたもので、水深1万mでも水を通さずに電子機器を使える、という優れた特徴があります。
このウレタン樹脂の応用範囲は広く、橋梁に設置されている伸縮装置の補修にも活用されています。これまでの大規模な伸縮装置の取替が必要なく、誰でも手軽に施工できるため、今後の活躍がとても期待されている技術です。
この記事では、ジェラフィンの特徴とその使用例について紹介しました。加えて、伸縮装置におけるジェラフィンのメリットもまとめましたので、概要を理解するためにご覧ください。
ジェラフィンの主な特徴
ジェラフィン(Jellafin)は別名で耐圧防水樹脂と呼ばれており、2つの液体を混合したウレタン樹脂のことです。深海の施設などで使う電装品を守るために開発されており、高弾性ポリマーの一種となっています。
使い方は簡単で、主剤と硬化剤の2つを同じ割合で混ぜ、その混合剤をそのまま充填したり塗布するだけです。
このウレタン樹脂の主な特徴は次の5つが挙げられます。
- 無色透明で光や電磁波に影響が少ない
- 水深1万mで電子機器が使える耐圧・防水性を持つ
- 耐衝撃性が高く地震にも強い
- 防湿性・防塵性・防食性にも優れている
- 電気を通しにくい電気絶縁性を持つ
使用できる温度も−20〜+120℃と幅広いです。加えて、接着力はなく再融着できるので活用の可能性はとても高いと言えます。
ジェラフィンの使用例
ジェラフィンは優れた耐圧性や防水性をもつ上、固まった後も無色透明という珍しい特性があります。そのため、深海だけではなく、橋や道路などのインフラや宇宙空間でも活用されています。
- 深海撮影用のカメラやLED証明の保護
- 海中リチウムイオン電池の水圧・防爆対策
- 屋外アンテナの防水・防錆対策
- 電子基板の封止処理
- 航空機のLED翼灯の保護
- ドローンの防水対策
- 伸縮装置の止水対策
- ワインの海中熟成における封止処理
伸縮装置におけるジェラフィンの特徴
ジェラフィンは土木業界に劇的な変化をもたらしており、それは橋梁の伸縮装置も例外ではありません。
これまでの伸縮装置では、防水補修に大きな負担が生じていました。しかし、充填するだけで作業が終わるジェラフィンの登場で、以下3つのメリットが得られるようになったのです。
- 補修作業の小規模化
- ランニングコストの低減
- 高い安全性と環境負荷の低減
補修作業の小規模化
伸縮装置の防水補修はかなり大掛かりで、複数人の作業員を投入して取替工事を行っています。例えば遊間19mmの場合、従来の方法なら2.8日/10mも必要です。
しかし、ジェラフィンは補修部分に流し込むだけで終わります。しかも、24時間で完全に固まりますが、施工して1〜2時間もあれば通行しても問題ありません。
そのため、0.5日/10mという速さで施工が終わり、作業後も安定して長期間にわたって防水性を確保できるのです。
ランニングコストの低減
取替工事では、複数人の作業員の他に、新しい伸縮装置と取り付けるための重機を用意しなくてはいけません。加えて、施工には知識と経験を伴った人材も必要なので、取替コストは相当な金額となります。
一方のジェラフィンは、2つの液剤があれば済む上、経験の少ない人材でも作業が可能です。そのため、取替コストは以下のように10分の1以下まで低減できています。
- 従来の施工:2,664,480円/10m
- ジェラフィン:238,250円/10m
高い安全性と環境負荷の低減
ジェラフィンはカドミウムなどの化合物が基準値以下になっており、臭気異常がないことも確認されているため安全です。
また、従来の取替施工で発生していた廃棄物や、施工時に排出される排気ガスなどの環境ダメージも少ないので、環境にも良いと言えます。
加えて、試験施工を行った結果、以下のような高い耐久性があることもわかっています。
- 2017年11月に行った試験施工(一般国道229号八雲町見市橋、遊間:100㎜)では施工から約3年後の2020年10月の定期点検で伸縮装置からの漏水は見られていない。
- 耐久性能試験で耐用年数30年に相当する引張圧縮繰り返し連続11000回をクリアした。(令和3年1月18日~1月19日実施)
引用:耐圧防水樹脂充填による橋梁伸縮装置の防水補修工法/NETIS(新技術情報提供システム)
経済性と施工性、安全性にも優れたジェラフィンは、これからの伸縮装置補修の中心になる可能性はとても高いです。