吊り橋とは、高い塔から伸びる”メインケーブル”と、そこから垂れ下がる”吊りケーブル”によって橋桁を支えている橋です。
橋梁工学では、英語で「suspension bridge (サスペンション・ブリッジ)」と呼ばれ、現代の橋の中でもっとも長い距離を渡すことができる形式とされています。
この記事では、吊り橋の仕組みと特徴を、メリット・デメリットを踏まえて解説しました。また、吊り橋特有の技術と代表的な吊り橋まで紹介しましたので、最後まで読めば概要はすべて押さえられる記事になっています。
吊り橋の仕組み

橋は大きく、橋桁などの上部構造と橋台や橋脚などの下部構造で成り立っています。そのうち、吊り橋は上部構造をケーブルで吊ることにより成立している橋梁です。
吊り橋にかかる荷重は各部材を通じて地盤に伝わりますが、具体的には次の流れで伝達されます。
橋桁▷吊りケーブル▷メインケーブル▷主塔▷アンカレッジ▷地盤
ケーブルは変形に対して元に戻る作用があり、これが見かけ上の剛性(変形しづらさ)を高めています。この仕組みが距離の長い橋梁に適しているため、現在の長大な橋梁の多くは吊り橋により構成されています。
各構造の名称
吊り橋を構成している主な部材は以下の5つです。それぞれの役割を解説します。
- 主塔
- メインケーブル
- 吊りケーブル
- アンカレッジ
- 補剛桁
主塔
橋にそびえ立つ高い塔のことです。メインケーブルを支える役割があり、基部は橋脚に固定されています。
塔が高いほどケーブルを強く張ることができ、より長い距離を支えることが可能です。
メインケーブル
主塔の頂部にかかっており、弧を描くように渡されている太いケーブルです。橋全体の重さを支える最重要部材であり、吊り橋の背骨と言えます。
ケーブルは高強度鋼線を束ねて構成され、腐食による破断が起きないように腐食防止の高い技術が用いられています。
吊りケーブル(ハンガーロープ)
メインケーブルから垂直に垂れ下がり、橋桁部分を直接吊り下げているケーブルです。複数吊り下げることでメインケーブルにかかる負担を分散させつつ、道路を水平に保つ役割を担っています。
アンカレッジ(アンカーブロック)
メインケーブルを吊り橋の両端で地面に固定しているコンクリートブロックを指します。コンクリートの重さで支える重力式と、岩盤の強度を利用するトンネル式に分かれていますが、アンカレッジを使用しない自碇式(じていしき)も存在しています。
補剛桁(ほごうげた)
橋桁のうち、硬さや強度などの剛性を高めて、たわみや振動を防ぐ構造が設けられた部分を指します。吊り橋は、風や地震による大きな揺れが起きやすいので、トラス構造などを使用して変形しにくくし、揺れやねじれを防ぐ狙いがあります。
斜張橋との違い
吊り橋と似た構造として斜張橋があります。この2つは主塔とケーブルを使用している、という点で大きく似ていますが、力学的な仕組みと見た目には明確な違いがあります。
| 吊り橋 | 主塔から主塔にケーブルを渡してる(たわんでいる)。 アンカレッジでケーブルが定着している。 |
| 斜張橋 | 主塔から橋桁に直接ケーブルを渡している(たわんでいない)。 アンカレッジがない。 |
これに加えて、両者は採用される橋梁の長さにも違いがあります。吊り橋は1,000mを超える非常に長い橋に向いており、斜張橋は中距離から1,000m以下が適している、とされています。
吊り橋の特徴

吊り橋には様々な特徴があり、それらを踏まえて橋梁の選定をする必要があります。他の橋梁と比較した特徴を、メリット・デメリットの両面で解説します。
メリット
具体的なメリットは次の通りです。
- 長い距離(支間長)を渡すことができる
- 景観と施工性に優れている
最大の特徴は、少ない材料で長大な橋梁を作ることができる点です。橋脚を減らすことが可能で、深い水深や強い潮流でも問題なく渡すことができます。
加えて、基本的には建設中に支保工(しほこう)を作る必要がなく、施工中に船舶への影響が少なくなります。また、その見た目からランドマークとしての価値も高いです。
デメリット
吊り橋のデメリットは次の通りです。
- 風の影響を受けやすい
- アンカレッジの建設が必要
吊り橋は橋桁が薄いため、風により大きく変形しやすい構造です。過去には、強風により吊り橋が崩壊したケースもあるので、非常に高度な設計が必要になります。
加えて、吊り橋には巨大なアンカレッジを設けますが、広い場所と強固な地盤が不可欠です。そのため、都市部や地盤の緩いエリアでは、吊り橋の建設は見送られるケースもあります。
吊り橋を支える技術

吊り橋の構造は、長い橋梁の建設を可能にしました。しかし、長期的に使用するには様々な課題をはらんでおり、それを解決するために開発された技術が大きく2つあります。
耐風安定性
吊り橋の最大の敵は”風”です。特定の風量が吊り橋に吹くと、橋がねじれるような動き(フラッター現象)が起きる可能性があります。
これにより吊り橋が壊れる可能性があるので、風が通りやすい網目状の開口部を設けたり、縦方向に鉛直の板(スタビライザー)を取り付けるなどの対策をしています。
ケーブル内送気
吊り橋のケーブルは取り替えることが不可能とされる部材です。しかし、ケーブルは鋼が使用されており、腐食する可能性は高く、その腐食は橋の寿命に直結します。
そこで、ケーブル内に乾燥した空気を圧送し、内部の湿度を抑える仕組みが開発されました。この仕組みは実質的な世界基準になっており、明石海峡大橋は世界で初めて導入された吊り橋とされています。
日本と世界の代表的な吊り橋

吊り橋は世界各地で建設されており、中には技術的な転換点となった代表的なものも存在します。その吊り橋と具体的な特徴を紹介します。
明石海峡大橋

1998年に完成した明石海峡大橋は、世界で初めてケーブル送気乾燥システムを実装した吊り橋です。全長3,911mと日本の吊り橋で一番長く、2022年に記録更新されるまでは世界最長でした。
この橋は、建設中に阪神淡路大震災に見舞われており、地盤の変位で全長が約1mも伸びました。しかし、橋は倒壊しておらず、日本の耐震設計の高さを証明した事例でもあります。
桃介橋

長野県にある桃介橋(ももすけばし)は、木造の補剛桁をもつ歴史的な吊り橋です。1922年に完成した全長247mのこの橋は、近代化遺産として重要文化財に指定されており、「桃の橋」とも呼ばれています。
ゴールデン・ゲート・ブリッジ(アメリカ)

サンフランシスコのシンボルとなっているこの吊り橋は、1937年に建設されました。周辺の環境は濃霧や強風、速い潮流と厳しい自然条件であり、建設が不可能な橋と評されていましたが、約4年の歳月をかけて完成しました。
1915チャナッカレ大橋(トルコ)

2022年に完成したこの吊り橋は、明石海峡大橋の記録を破り、世界最長の吊り橋となりました。名称の”1915”と支間長の”2,023m”の数字は、ガリポリの戦いや建国100周年など、トルコの象徴的な数字を用いています。
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