鋼製支承とは、鋼をベースに構築された支承を指します。明治初期に海外の橋梁技術として導入され、技術革新などを繰り返し、現在では様々な形の鋼製支承が誕生しています。
鋼製支承は、単体ではそこまで高い能力を備えてはいません。しかし、それぞれを組み合わせることにより、大規模な橋でも大地震に対応できる支承になるのです。
この記事では、鋼製支承の特徴やゴム支承との違い、種類についてまとめました。加えて、鋼製支承の欠点や損傷も解説しましたので、参考資料としてご覧ください。
鋼製支承の特徴

鋼製支承の歴史はそれなりに古く、日本では明治の初期ごろから練鉄板をすべらせる単純な支承が導入され始めました。
それから大地震の経験などを経験し改良を重ね、現在では以下の特徴を持つようになっています。
- 小規模な構造寸法にできる
- 鉛直方向の力で変形がおきにくい
- 大きな力や変位に対応できる
- 上方向への力を支持できる
以前の支承は、そのほとんどが鋼製でした。しかし、平成7年の阪神・淡路大震災を契機にゴム支承の割合が増えています。
ですが、鋼製支承はコストも比較的低いので、現在でも多くの支承が鋼製となってなっています。
鋼製支承とゴム支承の違い
ゴム支承とは、鋼に追加して積層ゴムを使用した構造をもつ支承です。免震や耐震の観点から導入割合が増えており、多くのメーカーで設計・製造されています。
鋼製とゴム支承には、大きく以下2つの点で違いがあります。
- アイソレート機能
- 減衰機能
ゴム支承はこの機能を単独で持っていて、鋼製にはそれがありません。そのため、鋼製は様々な構造の支承を組み合わせることで十分な能力を得ているのです。
なお、ゴム支承については以下記事で解説しましたのでご覧ください。
鋼製支承の種類とそれぞれの特徴

現在の支承は、大地震への対応などを中心に様々な機能を求められています。これは鋼製支承も同様で、それに伴っていろいろな機能を持った鋼製支承が登場しました。
具体的には次の通りです。
- 線支承(LB支承)
- 支承板支承(BP・A、BP・B支承)
- ピン支承(PN支承)
- ピボット支承(PV支承)
- ローラー支承(RO支承)
- ロッキングピアピボット支承(RPV支承)
線支承(LB支承)

線支承は、平面と曲面の2つの鋼材を組み合わせた構造をしています。鉛直方向の力には接触点で支え、水平方向は2つがすべって対応し、回転には上沓が下沓上でコロコロ動くことにより機能する仕組みです。
主に小さな橋梁(30m以下)で使われており、作りがシンプルで支承の高さを低くできる点がポイントです。一方で、回転が一方向しか対応できないことや大きな反力には対応できないことはデメリットと言えます。
支承板支承(BP・A、BP・B支承)
支承板支承は使用する材料によって2つに分類できます。
- 高力黄銅支承(BA・A)
- 密閉ゴム支承(BA・B)


高力黄銅支承はベアリングプレートを使い、水平力と回転に対応しています。密閉ゴム支承は上沓と中間プレートで水平移動させ、ゴムの弾性力で回転に対応する仕組みです。
支承の高さが低くコンパクトで、上沓とプレートの摩擦も少なく移動追従機能が高いのがメリットです。そのため、小規模から大きな橋梁まで対応できます。
ピン支承(PN支承)

ピン支承は回転に対応するための支承です。支圧型とせん断型に分類でき、せん断型は大きな水平力や上方向の力(負反力)に対応ができます。
ローラーを組み合わせることで可動支承としても使えますが、回転は1方向だけであらゆる向きに対応できるわけではありません。
ピボット支承(PV支承)

ピボット支承は下沓が球面、上沓が凹型で組み合わせた構造をしています。鉛直方向の力を支持して、回転は全方向に対応できるのがメリットです。
基本的には固定支承ですが、ローラーを付けることで可動支承にも変えられます。しかし、上からの荷重などには対応しても、上向きの力(負反力)には難しいのが特徴のひとつです。
ローラー支承(RO支承)
ローラー支承は大きく分けて以下2つがあります。
- 1本ローラー支承
- 複数ローラー支承


1本ローラーは回転と水平移動に対応できます。しかし、移動と回転の方向が違う場合にねじれ等が発生するため、現在はあまり採用されていません。
複数ローラーは下沓の下部に設置され、水平移動に対応しています。回転には支承内部の構造に1方向ならローラー、すべての方向ならピボット構造で対応するのが一般的です。
ロッキングピアピボット支承(RPV支承)
この支承は、ピボット支承を上下どちらにも取り付けた構造です。2つのピボットがあることで、回転だけでなく水平移動にも対応ができます。
高速道路のインターチェンジ等で使用されていますが、単独では自立ができない上に補強が難しく、耐震性への心配があるため、撤去などを検討するケースも多くなっているのが現状です。
鋼製支承の欠点や損傷

鋼製支承には、素材が鋼ゆえの欠点があります。加えて、その構造が原因で起こる損傷もあるので、今後の対策が求められています。
鋼製支承の主な損傷理由は次の通りです。
- 土砂などの堆積
- 塩類によるサビ
- 過剰な移動
- ローラーの脱落
土砂などが堆積

支承の上には橋梁の伸縮装置がありますが、この装置が劣化すると雨水や土砂が支承まで流れ込んできます。その結果、鋼製支承が常に潤った状態となり、腐食の原因となるのです。
塩類によるサビ

鋼製支承はサビへの対策として、昭和50年代から溶融亜鉛めっきで加工する手法を取り入れています。しかし、溶融亜鉛めっきは海風などの塩分が多く飛ぶ環境化や、凍結防止剤(塩化カルシウム)を使用する地域では、効果が大きく下がってサビてしまうことが分かっています。
過剰な水平移動

可動式の支承板支承には、サイドブロックとストッパーの間に隙間があります。この隙間で水平移動に対応していますが、隙間以上の移動が起きるとストッパーとサイドブロックが接触して、支承にひび割れ等が発生するケースがあります。
ローラーの脱落

ローラー支承は、移動と回転できる方向が想定と一緒である必要があります。しかし、それが一致していないとストッパーが変形してローラーが飛び出す場合もあります。
鋼製支承の今後

阪神淡路大震災以降、日本では耐震性の観点からゴム支承の採用が増えていました。
ですが、鋼製支承はゴム支承と比べて優れている点も多いです。そのため、耐震補強として鋼製支承が使われるケースが増加しています。
- 低コストで製造できる
- 鉛直方向のたわみがない
- 低温でも影響が少ない
- 大きな反力や変位に対応できる
低コストで製造できる
鋼製支承は以前と比べて製造コストが高まっています。これは、鋼製が頻繁に起きる地震動(レベル1)から大地震(レベル2)に対応できるような構造になったためです。
しかし、それでもなお、ゴム支承よりは比較的コストを抑えて製造ができる傾向にあります。
鉛直方向のたわみがない
ゴム支承はゴムの弾力を活用しているため、上からの力(鉛直荷重)で橋がたわむのが常です。加えて、振動も起こしてしまい遊間で段差が生まれ、車の走行に影響が出てしまいます。
一方の鋼製にはそれがほぼありません。そのため、走行性にはとても優れた支承と言えます。
低温でも影響が少ない
ゴムは低温になると硬くなり、弾力性が大きく低減してしまいます。ゴム支承は水平移動や回転への対応をゴムの弾性で補っているので、ゴムの能力低下は支承そのものの機能低下に繋がります。
一方の鋼製は弾性ではなく、すべり板やローラーで対応しますので問題ありません。ただ、近年は積層ゴムも進化し、極寒でも耐えられるものが開発されています。
大きな反力や変位に対応できる
鋼製支承は単体ですべての機能を備えているわけではないですが、組み合わせることで大きな能力を得られます。例えば、ピボットとローラーを合わせれば、鉛直方向と回転にはピボットが、水平力にはローラーがサポートすることで、大きな反力や移動に対応が可能です。
以上の理由から、鋼製支承は今後も使われ続ける重要な技術と言えます。
レベル2の地震動への対応ができた上で、増加したコストも低減できれば、ゴム支承よりも使用頻度は高まる可能性大です。